(2014/06/28)
捨てる勇気も必要! ~NHK『テレビで外国語』もう一つのテーマ曲~
テレビをご覧になっている方は、気づかれましたか? 今月6月から、映像は同じなのに、オープニングのテーマ曲が、別の曲に変わっていることを。
現在放送中のテレビ番組、NHK(Eテレ)「テレビで外国語-EURO24-」の欧州4言語シリーズのことです。この「テレビでイタリア語」「テレビでドイツ語」「テレビでフランス語」「テレビでスペイン語」はどれも人気の長寿番組ですよね。
今年の春から流れている、これらの共通テーマ曲は、私が作曲・制作をさせていただいています。この制作秘話などは、前々回のエッセイ(18秒にかける!~NHK『テレビで外国語』テーマ曲ができるまで~)で、お話ししましたね。今回は、その続編です。この最初のエッセイでは、メロディをそぎ落とし、凝縮させ、いわば“一言で表現すること”を学んだお話しました。
今回の続編のテーマは、こちら。
「捨てる勇気も必要!」
4月~5月に渡って流れていた曲は、NHKと私の間では、「オープニング・テーマB」と呼ばれています。そして、6月~7月に放送中の曲は、「オープニング・テーマC」です。
「ん? なぜBとCなの? Aは??」
もうお察しかもしれませんが、テーマAは、勇気を持って捨てられました(笑)。
◆ ◆ ◆
ここからは作曲段階のお話になりますが、NHKの番組制作者が求めている要素を、あれこれ盛り込んだら、まず「オープニング・テーマA」ができたんですよね。
結果的に幻となりました(笑)この曲のデモ音源を、ここでこっそり、お聞かせしてしまいましょうか。パソコン上で、MIDIと呼ばれる形式で自作したもので、最もシンプルな音源です。
シミュレーションのために簡単に作ったもので、かなりショボイ音ですね(笑)。ちょっとお恥ずかしいのですが、このオフィシャルサイトのファンの方に向けての特別公開です!
メロディの隙間には、「Ciao(チャオ)!」等の発声が入る想定です。これを生身のミュージシャンで演奏すれば、軽快でノリのいいオープニングになると考えました。ピアノやパーカッションも、ガンガンに入れると、きっと楽しい。
ただ、映像がアニメーションということを意識しすぎたため、子供っぽい感じになってしまった気がしました。
そこで、もう一つ予備で作曲したものが「オープニング・テーマB」です。映像から受けるざっと大まかな流れや印象をメロディーにしたもの。クラシックの軽快な雰囲気に、ピアノやドラムスが“風にのって空を翔る”ような気分……。
実際は、このテーマBが、4月からの放送に採用されました。「映像にピッタリ合うし、新年度版のスタートという感じがする」という理由で。
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以上のテーマAとテーマBのデモ音源を提出した段階で、NHK制作サイドから返ってきたリアクションは、まずまず良好。「この2曲で、なんとかなりそうだな」と、少しホッとしたものです。
その後のやり取りの中で、「最後の音を、ちょっと“変な感じ”にすること、できますか?」とか、「どこかとんがった感じがあるといい」など、ちょこちょこ手直しを頼まれました。そこで、面白いキーワードに気づきました。
要するに「ヨーロッパ調でオシャレな感じ」「映像はアニメーションだけど大人向け」「耳なじみが良い」「でもどこか、とんがってる」というサウンドに仕上げたい……うーむ!
個人的な印象として、NHKの制作の方々は、「聡明で勤勉で、いろんなことに造詣が深い」と感じ、いつも尊敬します。そんな彼らが面白がるような曲、ちょっと“耳に引っかかる”メロディを作ってみようかな……。
ここまでの「ゼロから音楽を作るのは大変」「しかも、短い曲は意外に難しい」という作曲の苦労話は、最初のエッセイでお話しましたね。
でも、「捨てる勇気も必要!」
テーマAとテーマBを少し手直しすればOK、という段階まできて、もう1曲まったく別のものを書いてみることにしました。これが、レコーディング5日前のこと。もう自由に作りました。だって、これはダメってことになっても、すでに候補2曲があるわけですから。
「映像に出てくる、キモかわいい(?)太陽は、どこかの神話に出てきそうだなー」などと空想しながら、18秒のメロディを一気に紡ぎます。これが「オープニング・テーマC」となるわけです。
「毎週、何度も流れるので、テーマCは、噛めば噛むほど味が出て、飽きないかも」「メロディの次の瞬間々々が、予想できないところがイイ」などのリアクションを、NHK担当者からいただき、私は心の中で「イェイ!!」となりました。「まさに“平井節”ですね」との感想もいただき、「“ちょっとだけ変なメロディ”は私、わりと得意です」と、答えました。そう、心の中では、やはり「イェイ!!」
最終的には、テーマBもテーマCもどちらも捨てがたい、ということで、両方を録音することになりました。かくして、優先順位から、テーマAは残念ながら、幻の曲となったわけです。
◆ ◆ ◆
レコーディングには、現在「平井景スペシャル“五重奏団”」のメンバーから、バイオリン&ヴィオラ・帆足彩さんと、ピアノ・木原健太郎さんが参加。というより、このレコーディングがきっかけで“五重奏団”が誕生したと言えます。
彼らが、どれほど素敵な音を生み出すか、ちょっと聞き比べていただきましょうか。先ほど話した、MIDIによる自作のデモ音源と、実際に放送に使われている、完全に生身の演奏。ドラムはもちろん、ベースやパーカッションも、私が兼任しています。
そして、こちらが今回の話題になっているテーマC。MIDI音源版と現在放送中の演奏版。キーが違いますが「生のバイオリンの音域は、こちらの方が合うだろう」と、前夜に譜面を書き直したのです。
いかがでしょうか?
なかなか公開することのない、制作段階の音源もアップしましたが、こんな短い音楽にも情熱を注いでいることを、少しでも感じていただけたら、本当にうれしく思います。
実際の映像と合わせると、さらなるマジックが!! これは、テレビでぜひともご覧くださいね。
NHK(Eテレ)EURO24-欧州4言語コラボ企画-(夜22:25-22:50)
月:テレビでイタリア語
火:テレビでドイツ語
水:テレビでフランス語
木:テレビでスペイン語