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(2014/04/05)

18秒にかける!~NHK『テレビで外国語』テーマ曲ができるまで~

2014年3月31日からスタートしました、NHK(Eテレ)の人気番組、「テレビでイタリア語」「テレビでドイツ語」「テレビでフランス語」「テレビでスペイン語」の欧州4言語シリーズ。

このたび、2014年・新年度版、4番組共通のオープニング・テーマ曲の担当に抜擢され、作曲&サウンド・プロデュースをさせていただきました。

レコーディングは2月下旬、NHKが最高峰と誇る506スタジオにて行われました。番組制作者やレコーディングスタッフ、ミュージシャン……。その場にいる全ての人が、「一緒に音楽を創り上げる喜び」を共有できている。音楽に真摯に向き合い、楽しむ、素晴らしい現場でした。

参加してもらったミュージシャンは、バイオリン&ヴィオラ担当の帆足彩さん、そしてピアノ担当の木原健太郎さん。素晴らしい音色の持ち主です。 私はというと、ドラムスをはじめ、ベース、そしてパーカッション類を一人で兼務しました。

帆足さんには、バイオリンやヴィオラで3~4人分のパートをダビングしてもらい、ぐっとクラシックな雰囲気になります。さらに、私がパーカッション類を追加していき、木原さんにもピアノで彩りを加えてもらって……。まさに少数精鋭で、みるみるうちにとても贅沢なサウンドになりました。

◆ ◆ ◆

今回の音楽制作にあたり、渋谷NHK本局にて初会合が行われたのは、昨年2013年も年の瀬が押し迫る頃。 番組制作者の中には初対面も方もおられました。それでも有難いことに「CD『SORA』の人ですね。“信州ジャズ”というものありましたよね」などと、私の存在を知ってもらっていることで、その後のお話もし易くなります。これまで何かしら活動を続けてきたことは、それなりに意味があるのだと感じた瞬間でした。

ちょうど昨年末にも別件で、45秒のDVDオープニング映像の音楽を作ったばかりでした。そのときも、映像の流れをじーっと見る。テンポ感や展開のイメージが浮かんでくるまで、何度も何度も見ていました。映像に合わせた曲作りは、楽しくもあり、難しく骨の折れる仕事でもあります。

それが今回のNHK番組では・・・なんと、1曲が18秒

18秒の作曲となると、もしかしたら「短いから、楽な仕事だ」とか、「発想一発ですぐに終わりそう」と思われるかもしれません。

実際に取りかかるとわかるのですが、これがなかなか難しい。

18秒では、いわゆるイントロや間奏、エンディングなどの時間はない。およそ8小節ほどのメロディだけで、“起承転結”の流れを表現しないといけない、いや、したいと思いました。

レコーディングの1ヶ月前になると、まず絵コンテが送られてきて、それからしばらくすると、実際の映像ができあがってきました。「大人の賢い女性に向けた、絵本風のアニメ」といった趣きでしょうか。なるほど、さすが素敵です。この映像に、「Ciao(チャオ)!」「Bonjour(ボンジュール)!」「Hola(オラ)!」などの発声がちょこちょこ入ります。

「寝る前のひと時を、語学勉強をしながら、ゆっくり過ごそうか・・」という方に、「楽しくワクワクした気分になる」音楽を提供したい。

……うーむ。

“ヨーロッパ調”と言っても、イタリア~ドイツ~フランス~スペインでは、それぞれのリズムの感じや楽器の音色だけでも、ずいぶんと異なりますよね。……さて、どんな感じにしようか。

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黙々と歩いているときに、メロディが浮かぶことが多々あります。今回も、あの2度の大雪の降った今年の冬の極寒の中、ひたすら歩き回りました。

メロディができてきたら、ハーモニーも考えていきます。主のメロディに寄り添い厚みを加える、ハモリと呼ばれるパート。さらに、メロディとは別の動きをする旋律など。これら複数のパートを同時に頭の中で鳴らし、紡いでいくのはとても集中力のいる時間です。

そうやって譜面ができあがると、次にパソコン上で(MIDIで)シミュレーション。そこで、映像にピッタリと合うテンポを探ったり、曲のキー(ハ長調とか)を決めたりします。このデスクワークにも時間をかけます。

今回は作曲の段階で、帆足さんのバイオリンとヴィオラの音色、木原さんの歌うようなピアノをイメージしていました。さまざまなレコーディングの段取りが進むかどうかは私にかかっている、というプレッシャーも感じつつの日々。そんな中で、ついには3曲のデモ音源を提出することができたのです。

完成したオープニングの音源は、以下をクリックすると聴くことができます。

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私のドラム・アシスタント君が、こんな感想を言っていました。

「録音本番のドラムは1~2回しか叩かず、あとはコンソール(司令室、ミキサー室)でずっとディレクションしているのを見て、平井さんの中にしっかりとした“音のビジョン”があるのがわかった」と。

私がリーダーのときに、いつも望むこと。それは、関わった皆さんが「私が、この音楽をさらに良くしたんだ」と充実感を持つこと。なので、なるべくいろんな意見やアイディアを尊重したい。

ただ、“自由”と“野放し”は全く違います。ここが、若い頃は難しかった。

自分が優柔不断だと、皆が好き勝手にやりだす。もしくは、どこに向かえばいいのかわからないので、迷うのです。

「その音楽に対する“羅針盤”のようなものが、自分の中にあること」

これはとても大事なことだと思います。長い時間と経験が必要で、私もまだまだ道の途中ではありますが。

自分なりの“羅針盤”を持って現場に臨めば、いろんな意見も、寄り道さえも、決して自分を乱すものではなくなります。そして、刺激的で、楽しいものに感じられる余裕が出ます。

実際に今回も、素敵なアイディアがいろいろ飛び出すレコーディングでした。そして、どんどんと“映像と一体化した音楽”になっていくのを楽しんだのでした。

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これらの大切な曲たち。今でも鼻歌で歌ったりしますが、そのたびに、メロディが降りてくるまで四苦八苦していた、あの2度の大雪ウィークを思い出します。

番組制作者のお三方、熊田健さん、三宅美保さん、右近紘子さんには、作曲の段階からずっと、的確なディレクションを数々いただき、大変に助けていただきました。番組制作に情熱を注ぐ姿に、感動もしました。

レコーディング・エンジニアは高砂隆介さん、森山芳晴さん。ほとんど音に関する注文をつけることがなかったような。それほど映像と音楽の方向性を理解し、一緒に音を作り上げてくださいました。

素敵なオープニングの映像作家は、フクシマ ミキさん(こちらに、チラッと今回の映像が置いてあります)。

皆さん、本当にグレートでした。

「メロディをそぎ落とし、凝縮させ、、いわば“一言で表現すること”」

その重要性を学ぶ、とても貴重な経験となりました。

NHK(Eテレ)【EURO24-欧州4言語コラボ企画-】(夜22:25-22:50)
月:テレビでイタリア語
火:テレビでドイツ語
水:テレビでフランス語
木:テレビでスペイン語

各番組でテーマカラーがあり、映像の色合いがそれぞれ変わります。番組自体は、従来の講座のイメージを覆す、粋な構成で、海外ドラマを観てるみたい。ぜひ、この機会にご覧ください。

毎週4回の放送に、それぞれの再放送を入れると、月に30回以上もこれらの曲が流れることになります。 日本全国、そして国際放送でアメリカやヨーロッパへも、広くこのメロディが届くのです。なんと嬉しく光栄なことでしょう!

たった“18秒”のオープニング映像にも、こんなドラマがあったのでした。

2014/06/28追記

6月からの「オープニング・テーマC」を採用した放送開始に伴い、このエッセイの続篇を公開しました。テーマCの音源はもちろん、“お蔵入り”した幻のテーマA(ただしMIDI版)もお聴きいただけます。