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(2012/05/15)

純国産“アサプラ”よ、こんにちは。

2012年の大きな出会い

今年に入って大きな出会いがありました。これは演奏のスタイルにも関わる、重大な出来事です。

ドラムのヘッドを作っている日本唯一のメーカーが栃木県にあります。1963年からこだわり続けて50年。「株式会社アサプラ"ASPR"」です。

ドラムのヘッドとは

「ドラムのヘッド」ってわかりますか?

ポコポコ叩いたり、ペダルでドンドン踏んだりする所謂「太鼓の皮」のことです。「皮」と言っても、現在ドラムにはほとんどプラスティックのフィルムが使用されており、消耗品です。

私はドラムを叩き始めて約30年になりますが、恥ずかしながら純日本製ヘッドがあることを知りませんでした。いや、もはや気にしたことがなかったかもしれません。比較的安価で安定した世界最大手の米レモ製ヘッドを使うことが、みんな当たり前になっているのが現状だからです。

きっかけはライブ会場

「国産ヘッドを使ってみませんか?」
ライブ会場でそう声をかけられ、サンプルを送ってもらったのがきっかけでした。 「おおー、なんだこりゃ!?」今までと違う音のキャラクターに、驚きました。

「音」の向こうに、自然の風景が浮かびました。土とか木の匂いがしました。もともとコンガのようなパーカッションの音が好きな私は、その「本皮」のような感触と、自然な余韻に惹かれました。

早速、その“アサプラ”社へ出向きました。今年の2月のことです。「どんな風に作ってるのか」「どんな種類の製品があるのか」その全貌を確かめたかったからです。


空気の澄んだ地の工房にて

栃木県那須郡は那珂川町。予想以上に田舎の(あ、失礼)、最高に素朴で、空気の澄んだ何もないところに、その工房はありました。社長と息子さんを中心に、事務員さん含め、5人だけで運営していることも驚きです。とても温かく迎えてくださいました。

自分のドラムセットを持ち込んで、片っ端からヘッドを交換しては試奏。気付けば夜。6時間は叩いてたと思います。

とても高品質な素材を使い、製法に独自のハイテクが駆使されている。それでいて、滑らかで素朴で説得力のある音。ふくよかで鳴るけど膨らみ過ぎす、チューニングもしやすい。そして、良い意味で、こんなにも自分の表現スタイルにまで踏み込んでくるヘッドは初めてです。つまり、いろいろとイメージが触発されて広がるのです。

私が感想や意見を述べている間やドラムを叩いている間、それはそれは真剣に聞いてくださるアサプラのお二方。ビデオに撮ったり、ずっとノートにメモされるその熱心さに、クラフトマン・シップを強く感じたのでした。

「面白いぞ、この音!」

すっかり意気投合。試行錯誤の試作品もあるし、私のリクエストで、どんな物でも作ってくれるとのこと。

私はヘッドに敬意を表して、一番目立つ正面に「ASPR(アサプラ)」のロゴを大きくプリントしてもらっていいと提案。感激していただきました。本来はドラム本体のメーカー「Pearl」の文字が書いてあるんですけどね。。。(なので、最近は各現場のスタッフに「このドラム、どこのですか?」と聞かれたり。本体は「パール」さんです。)

その日は初対面だったにも関わらず、帰りには、社長さんと二人でなんと温泉へ。温泉好きの私にはたまらない土地ですし。お湯に浸かりながら、社長さん達の地道な苦労話をお聞きしたりして、私のドラムへの情熱もまた加熱したのでした。


アサプラを手に入れて

それからの数ヶ月というもの、大半の時間を、このアサプラ製ヘッドと向き合う時間に費やしました。

ほら、例えば、衣服や靴やメガネのキャラをイメチェンした時とか、髪型を大きく変えた時とか。スタイルを方向転換する時って、しっくり馴染んでくるまで時間がかかる気がしませんか? 自分自身の本質は変わらないんだろうけど。

このアサプラ・ヘッドのキャラクターを自分のものにして、そこから触発される感覚も演奏に活かせるようになるにも、それなりの時間をかけ、努力する必要があると思うのです。

「音」を追求する時間というのは、長く長く苦しく、そして楽しいのです。

細くても一筋の光が見えた時、それを掴みにいこうとする。手に入れた時の喜び。と、それも束の間。勘違いかもと、また時間をかける。長く長く苦しい。そしてある時、人生はその繰り返しを楽しんでいるのだと気付く。きっと、そうなんだと思います。

おかげさまで、今いっそう演奏する喜びが大きくなっています。新しい音との出会いに感謝する毎日です。


最後になりましたが、(株)アサプラの尾上敏幸社長、尾上雅文さん。いつも惜しまぬご協力をありがとうございます。そして、出会いのきっかけを作ってくださった茨城県日立市にある株式会社「黒沢楽器」の栗田克夫さん、美由紀さんご夫妻にも、深く感謝申し上げます。

今年、プロミュージシャン活動20周年の私ですが、これまでの多くのご縁に感謝しつつ、さらなる「出会い」「再会」を大事にできる年になるといいなと思います。