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(2010/11/24)

アイランド・クリスマス誕生!

猛暑で汗かくこの2010年の夏。
「クリスマスに聴くCDを作りたい」との依頼がありました。

メジャーレコード会社“P-VINE RECORDS”が、音楽ライター・島田奈央子さんが主宰する「Something Jazzy」にプロデュースをオファー。
そして彼女からサウンド・プロデュース、つまり“音楽を創ること”を任されたわけです。

「自分が好きな“海辺のバーやドライブで聴きたいアウトドア”なクリスマス・アルバムがいいな。」「だったら、自分も聴きたい。自分が聴きたいアルバムを創りたい。」と、返事しました。


Illustrated by Shingo Kojima

いろんなシチュエーションを設定して「こんなアルバムを聴きたい」と紹介した著書「Something Jazzy〜女子のための新しいジャズ・ガイド」(2010年)が出版されるや、“女子ジャズ”ブームのけん引役として注目を浴びる島田さん。

今では“女子ジャズ”という言葉が独り歩きし、様々な解釈でこのキャッチコピーを使用してイベントや音楽配信をしている業者さん達もいるようですが、これは元々、そのブックカバーの帯に書かれたコピー“毎日、女子ジャズ。”から生まれた言葉です。

そんな彼女は、私が昨年リリースしたリーダーアルバム「SORA/Kay Hirai」をはじめ、様々なプロジェクトを共に立ち上げている共同プロデューサーでもあります。

私が創りたいサウンドはすぐに理解してもらえ、「それは新しいかも!」とのことに。 彼女はアルバムのタイトルを、「Something Jazzy アイランド・クリスマス〜冬の休日・女子ジャズ」と命名しました。そのあたりのイメージの沸かせ具合、センスはさすがです。

“今までにない”新感覚のポップでアコースティックなサウンド。南の島で聴きたいクリスマス・アルバムが、ついに誕生ー!!

と・・・誕生するまでには、ものすごいエネルギーと時間がかかりました。

アルバムの中身を考え、創る。

昨年のリーダーアルバム「SORA」の製作期間と同様、準備にものすごい時間を費やし、睡眠不足の毎日。少し布団に入っては、また何かを思いついて起き上がる。クリスマス曲たちが頭をグルグルぐるぐる・・・・獲りつかれたような夏の日々でした。

今回のアルバム制作にあたり、全ての曲に新たなアレンジを与えることに、時間をかけました。

候補曲のメロディーを何度も歌いながら、昼も、夜も、夜明けでも、散歩したりドライブしたりお風呂に入ったり、、、ずっと。

もう、ずーっと。。。じーっと。。。

そうしてると、 何かの景色が聞こえてくる。アイディアが降りてきます。 そのまま集中を続けて、頭の中でサウンドを展開させていきます。

行き詰まって、ハタと「これは面白くないアレンジかも」と感じたら捨てることも多々あります。かなり辛い瞬間です。

逆に、アレンジの取っ掛かりから、ココロに何かが触れる感触があると、「キター!」って思います。アレンジを続けてて、ずっとワクワクする感じがないとダメだと思います。 これは作曲も同じですね。

ちょっと曲解説

今回の選曲をご覧ください。

  1. Winter Wonderland
  2. Santa Claus Is Coming To Town -サンタが町にやってくる-
  3. Ohana Cheer (オリジナル)
  4. The Christmas Song (メル・トーメ)
  5. Happy Christmas -War Is Over- (ジョン・レノン)
  6. 島・聖夜 -Island Christmas- (オリジナル)
  7. White Christmas
  8. Christmas Time In Blue -聖なる夜に口笛吹いて- (佐野元春)
  9. Silent Night -きよしこの夜-
  10. Ohana Wave (Remix)

アルバム全体が出来上がってみると、ワクワクするような楽しい世界に始まり、大人な癒しの世界で終わっていきますよ。

「サンタが町にやってくる」は、レコーディング当日の朝まで譜面を書き直してました。 サンタさんって、クリスマスの日は飛び回ってめちゃくちゃ忙しいと思うんです。でも子供達の顔を想うと嬉しくなる。粘った甲斐あって、そんな感じが表現できたと思います。

メル・トーメの「ザ・クリスマス・ソング」は、シンプルなアレンジですが、こんなバージョン聞いたことないと思います。オシャレーで、海岸をドライブしたくなる感じに仕上がりました。

ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」は、まず最初のメロディー部分でのベース・パートとリズムの感じが思い浮かびました。このトロピカルなアレンジもほかにないと思います。

佐野元春さんの選曲は、島田プロデューサーのこだわり。あらためていい曲だなーと思わせます。原曲のイメージを壊さず、ボーカル大城蘭さんの雰囲気を活かすのに、アレンジには苦労しました。

ミュージシャンを集める

話はアレンジ作業の前。アルバムのイメージがだいたい出来上がった頃に戻りましょう。

断片的にアレンジのアイディアが見えてきた時点で、参加してもらうべきミュージシャンはすぐに思い浮かびました。

まずは、ギターリストの平岡雄一郎さん。

彼は、あらゆる種類のギターを駆使して、ジャズやポップスのみならず、ハワイアンやカントリー、ボサノバなど、幅広くサウンド・メイキングできるギターの達人だということを知っていました。

今回は、彼のギターが全編に渡って、前なり後ろなりでずっと鳴っているイメージが必要でした。平岡さんは、私が意図するところを的確に捉えて、期待以上のアイディアを提供してくれています。

そして、私の世界観になくてはならない存在。スティールパンの原田芳宏さん。ドラム缶から生まれたカリブ海の楽器を操る日本一の名手。

私のアルバム「SORA」でもキー・マンとなっていますが、私がプロとしてデビューした最初の仕事からのお付合い。もう私がやりたいことを完全に把握してもらってます。そして、おこがましい言い方ですが、私は、彼にどういうポジションで参加してもらえばいいか、最も彼を知るミュージシャンの一人だと思っています。

今回のアルバムでも、全面的に彼のサウンドがポイントになっていることは一聴すればすぐに分かります。

ベーシストの村上聖さんは、長年にわたり私の音楽を支えてくれている大事な存在です。

自分の曲やドラムに対するリスペクトを感じるし、一緒に演奏するだけでワクワクします。 特にここ数年で、強力さを増し、ミュージシャンとしてもう別格の域に入った感があります。

ベースって、なかなか地味に聞こえるかもしれませんが、彼の音は太く重く、かつ洗練されていて、このアルバムでも歌いまくっています。

上記の、このお三方が揃った時点で、もうサウンドは個性的で極上なものに。 ギター平岡さんとベース村上さんは初共演でしたが、この最高の組み合わせをプロデュースできたことも喜びの一つです。

ここに、さらなる輝きを加えるべくピアニストの榊原大さんを迎えました。 おーー、なんという贅沢なレコーディングでしょう!!もー、ありえへん!!

クラシックの素養をベースに、独自の世界観で活躍する榊原さん。

彼のピアノは、本当に興味深く面白いです。ユーモアもカッコ良さもある“榊原”節が随所に散りばめられてます。また「島・聖夜」という収録曲の大さんのピアノは、繊細かつ壮大ですね。はまり役でした。

ここまでのミュージシャン、みんな私より年上ですね。

キラキラ輝いてて、尊敬するメンバーを集めると、こうなること多いんです。まぁ、その分、いろいろ気を使わなくてはいけなくなりますが。。。

そんな40代の諸先輩の中にいても、まったく物怖じもせず、マイペースで自然体、まさに天然の若手シンガー・大城蘭さんは、沖縄育ち。

沖縄時間っていうペースがあるんでしょうね。そんな温かでキュートで素直で、島育ちな空気を、アルバムいっぱいに注ぎ込んでくれました。もろジャズ、もろクラシックのシンガーではない、なんとも素朴な感じが欲しかったんです。

やりたい感じを伝え、アイディアをたくさん頂く。

アレンジは、メンバー各人の独特の音色やアプローチを想像すると、とても捗り(はかどり)ます。「どこまでサウンドをイメージできるか」がポイントになってきます。

私の作曲やアレンジの作業はいつも、「メロディ」「ハーモニー(和音)」「アイディア」を強くイメージできるようになって初めて、やっと楽器(ピアノやギター)に向かい、譜面を書き始めます。

実際の現場では、指揮者のような役割のドラムを自分で叩くのですから、かなりの部分はミュージシャンに伝わります。

一度、レコーディングに入る前にリハーサルを行いました。

メンバーの皆さんにとっては、その時点で、全てが新曲状態です。 一曲ずつイメージを伝え、リハーサルを重ねては、構成を変更したりしていきます。 そうすると各楽器の達人たちから、さらなるアイディアも出てきます。

やってみて良いと感じたら、素直に感謝して採用させてもらうことにしています。 でも、いろんなアイディアがごっちゃになると、自分が見ていた景色を見失うことがあります。そういう時は、「海や空の景色が見えなくなったから、元のシンプルなままで行きましょう」などと、説得することもあります。

「説得」??そう。個性的なアーティスト達は「やることに納得」しないと、なかなか音を出してくれないものです。

いずれにせよ、皆さんの演奏力、解釈力、アイディア力は、素晴らしいものがありました。 レコーディング初日までに、さらに譜面を改良したり、完全に捨てて、新しくアレンジし直したりしました。

-新クリスマス・ソングを書く-その1-

そうそう。今回、いろいろアレンジを練っている最中に、2曲の新しいクリスマス・ソングを作曲しました。

1曲は「Ohana Cheer」(オハナ・チア)

他の曲のアイディアを頭の中で練りながら、昼間に散歩していると、このメロディーが降りてきました。リズムの感じとかイメージもはっきりと。

「ハワイのクリスマス!」ハワイ語の“オハナ”、つまり“家族”や“仲間”が集まって過ごすクリスマス。

どうしてもハワイの人に詞をつけてもらいたくて、島田プロデューサーの友人を紹介してもらいました。ハワイ在住のシンガーソングライター、ランス・ジョー(Lance Jyo)さんです。

彼には会ったこともないのにいきなりメールでお願いし、自分でピアノ弾きながら「ラララー♪」って歌った録音を送り、どんな曲にしたいのか、どんなイメージかを伝えました。全部、英語のメールでのやり取りなんですよー。アワワワ・・・。

かくして、とても素敵なクリスマス・ソングが誕生しました。しかも、ハワイ人と日本人の合作です!なんというサプライズでしょう!自分でも、とても嬉しい出来事です。

-新クリスマス・ソングを書く-その2-

もう一方のオリジナル曲は「島・聖夜 -Island Christmas-」(“しませいや”と読みます)。

これは深夜にとても静かな場所をウロウロしている時に生まれました。やはり、他の曲のアレンジに四苦八苦している最中にです。その時の木々の匂いと満月をまだ覚えています。

この曲のレコーディングでは、私は「指揮」をやったんですよ。 作曲した時点で、ドラムが入る感じじゃないなと。(苦笑)

少し速くなったり遅くなったりと、テンポも揺れる壮大なイメージ。で、歌とピアノ、ベースを、私の指揮で同時に録音しました。

ピアノ榊原さんが「景くんが指揮を振ってる姿は、見慣れなくて、ちょっと笑える。。。」なんて言ってましたが、とてもとても素晴らしいテイクが録れました。

「静かな島、海辺で迎える聖なる夜。遠く彼方を想いながら。。。」こんなクリスマス曲、あってもいいですよね?

スタジオ模様

レコーディングはまず、みんなと綿密な打ち合わせをしてからスタートしますが、 バンドの演奏自体は1〜2回くらいのテイクで終わります。 曲全体のムードがいいテイクが録れたら、個々人のちょっとした手直しや、ダビングをして音を重ねたりしていきます。

私はみんなと一緒にドラムを叩き、それ以外でも全体の進行役になるので、まったく休む暇がありません。私が休むとレコーディング作業自体が休止状態になるからです。



みんなでコーラスや手拍子する曲も、2曲ほどありましたよ。こういうのは楽しいですね。

みんなも演奏の時とは違う表情になります。「Ohana Cheer」では笑い声まで入ってます。 榊原大さんがノリノリで笑わすんです。曲調に合った雰囲気になりました。



素晴らしいスタッフ陣

プロデューサーの島田さん、レコード会社の担当ディレクター真野博未さんにもコーラスに参加していただきました。

真野さんも、連日にわたり朝方まで粘り強くお付合いいただきました。

ジャケットや中のパンフレットの打ち合わせを、スタジオのロビーで島田さんと何度もやり取り。「パッケージも、中身の音楽に負けないくらいセンスいいものにしたい!」と言うお二人の熱意を感じました。

今回はパーカッションも全面的に叩きましたが、歌入れもすべて終わってから一人でダビングしました。パーカッションが入るにつれ、曲の印象がどんどん大きく変わっていきます。

アレンジ段階からこれらのパーカッションが頭の中で鳴っていたのですが、曲の完成形は自分以外、誰にも分からないという状況だったので、最終段階でやっと曲の全貌が明らかになりました。

このようにスタジオで私は休む暇がなかったわけですが、それ以上に休めなかったのはレコーディング・エンジニアの大島久明さんでした。

レコーディングだけでなく、続けてミキシングという重要作業があり、スタジオに泊り込みで頑張っていただきました。

アルバム最後の曲で“波の音”が入ってるんですが、これもそういう楽器を使って私が「ザザザー」ってやってます。大好きな海を思い浮かべながら。

この録音なんか、徹夜明けの朝9時ですよ。波音に癒されすぎて、私も大島さんも倒れる寸前でした(笑)。

音色やバランスを細かく調整しながら、曲想を決定づけるミキシング作業まで完成したら、すぐにマスタリングに持って行きました。

これは、音全体をブラッシュアップしたり、曲間を決めたり、アルバム全体の印象を握る、実は一番ポイントとなる作業です。

このマスタリングは、赤川新一さんにお願いしました。 私のアルバム「SORA」のレコーディングをしてくれたトップ・エンジニアです。 「いい感じのアルバムだねー」って言いながら、赤川マジックを注入してくださいました。

このように、たくさんの方の手を経て、一つの作品が誕生しました。

ありがとうございます。

音楽以外の面は私の担当ではないのですが、アルバムを出版するには、本当に多くの方が関わっておられます。

好き勝手に音楽を創る機会を私に与えてくださって、関係者の皆様には心から感謝申し上げます。

毎年、クリスマスの時期になると聴いてもらえるといいなと思います。 いや、一年を通してずっと聴いていただきたい作品です。

『Something Jazzy アイランド・クリスマス〜冬の休日、女子ジャズ』

素晴らしいミュージシャンとスタッフの、情熱と愛情がいっぱい詰まったアルバム。 どうか皆さんの手元に一枚置いていただけたら、こんな幸せはありません。

関連リンク
エッセイ「【モノを創る】 -デビューアルバム「SORA」-
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ディスコグラフィ『Something Jazzy アイランド・クリスマス〜冬の休日、女子ジャズ』(←こちらでご試聴いただけます)
アルバム発売記念ツアー(11月27日@愛知・名古屋 DOXY)
アルバム発売記念ツアー(11月28日@大阪・梅田 Mister Kelly's)
アルバム発売記念ツアー(12月3日@東京・新宿 ミノトール2)

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