←エッセイ・オピニオンのトップに戻る

(2013/07/27)

ただいま“信州ジャズ”推進中!~善光寺・NHK・門前ジャズストリートなど~

信州を拠点にするピアニスト・伊佐津さゆりさんをプロデュースするにあたって、昨年から「信州ジャズ」という新しいジャンルを打ち出してきました。信州の大自然に対する“感動”と“畏敬の念”が彼女の書く曲には込められていて、まさに「信州ジャズ」という表現こそが、彼女の“生き様”にピッタリくるものだと、そう思っています。

このプロジェクトを進めていて思うことは、「人とのご縁」の大事さや不思議さ。

もちろん、伊佐津さゆりさんとの学生時代の出会いが出発点であり、素晴らしいメンバー、スタッフの才能にも恵まれてきましたが、それだけでなく、「信州ジャズ」という音楽は、いろんな方とのつながりを呼び寄せ、その支えによって、自ずと推進している気がしてなりません。それは、特に今年に入ってから、日に日に強く感じるようになりました。

ちょっと前のお話になりますが、今年4月に行われた長野「善光寺」でのコンサートもそうです。前回のエッセイで書きました千葉「萬福寺」さんからのご縁が広がって、ここにたどり着きました。

現地へ下見に行き、サポートを志願してくださる方々と打ち合わせ。「善光寺へ訪れる人に、観光やお土産だけでなく、“信州の音”も感じて帰っていただきたい」とのお言葉をいただき、誰でも演奏できるというわけではない「善光寺」大本願のグランドピアノの使用許可も出て、気づけば開催の運びになっていました。

運営面、条件面など、細かいお仕事的な打ち合わせの最中も、ずっと黙っていた伊佐津さゆりさん。その2時間後くらいでしょうか、お茶している時にふと口を開きました。「善光寺で演奏できるって、、、すごくない!!??」全国的にもトップクラスのお寺ですし、特に長野の人にとって、善光寺というのは「全てが行き着く所」と表現するほど、それは特別な場所。そこでまさか演奏できるなんて! その驚きと喜びを、2時間ほど噛み締めていたようです。リアクション、遅い!(笑)

今でも私は、ミュージシャン仲間やお客さんから「善光寺でコンサートしたなんて、すごいね」とたびたび言われます。そんな珍しい会場のレポートを、その一連のツアー風景とともに、ここに改めて記しておきたいと思います。


4月29日 長野市「大本山“善光寺”大本願」明照殿にて

2013年4月29日、会場を埋め尽くすお客様に迎えられ、「信州ジャズ@長野・善光寺・大本願」でのコンサートは始まりました。

まずは、善光寺の宿坊「玉照院」の住職・山ノ井大樹さんのご挨拶から。

ご住職のご尽力がなければ、このコンサートは成功しなかったでしょう。それほどに、告知や集客に奔走してくださいました。宗派を超えて「善光寺・大本願」とのご縁を結んでくださったのも、この方です。

「信州ジャズ」という音楽で、私と共同でプロデュースに関わってくれている音楽ライター島田奈央子さんも、その魅力を伝えてくれました。

参道に面している会場を一歩出れば、この風景。ゴールデンウィークの晴れた午後とあって、大勢の観光客も行き交う、活気あふれる場所。それでいて厳かな独特の雰囲気が、辺りに充満していました。

会場となった大本願の門前には、大きな看板。メンバーの宿泊場所になった宿坊「玉照院」にも、大歓迎ぶりが伺えます。もう町中のあちらこちらに、「信州ジャズ」のポスターが貼ってありました。ありがたいことです。

心の落ち着きと興奮が同居する、なんとも不思議な感覚でした。演奏も自ずと、こんな感じになりますね。何かが降りてきてる様でしょうか。

今回のメンバーは、伊佐津さゆりさんと私をはじめ、アルバム「Field」にも参加してもらっているフルート坂上領さん。彼はもはや「信州ジャズ」サウンドのキーマンとなっています。

そして、ベースは初登場の田中晋吾さん。日本を代表するフュージョン老舗バンドT-SQUAREでも大活躍のベーシスト、彼が入ると信州ジャズならぬ「信州フュージョン」?? いやいや、その幅広い音楽性で、柔軟でカッコいいジャズにしてくれました。

伊佐津さゆりさんにも、思い入れたっぷりの場所とあってか、静かなる意気込みを感じます。これまではライブのトーク(MC)も控えめで、私にお任せモードだったのですが、この日は違いました。「今日は、自分で責任持ってトークを進めたい」と。

この日、彼女の中で、“ミュージシャン”、“アーティスト”であることの何かに、変化が生じた気がしました。

遠方から来てくれたファンの皆さん、地元でじわじわ増えつつある信州ジャズのファンの皆さんの他にも、初めてジャズのライブを体験されるようなお客さんも大勢おられたようです。大きな歓声と拍手が嬉しかったです。

今回のコンサート仕掛け人の一人、「寺子屋ブッダ」を運営されている松村和順さんが、最後にこう締めくくってくださいました。

「今日の演奏を聞いて、“新しい信州の宝”に、皆さん、気付かれたのではないでしょうか。」

この言葉は、我々のこれからのモチベーションを上げる大切なものになりました。

当然のことながら、打ち上げは、それはもう盛り上がります。坂上領くんと私は使命感からか、山ノ井住職のお酒のペースに必死に付いて行き(笑)、夜中3時に全員が限界を迎えたのでした。

19時スタートの宴会ですから、朝方に男性陣と大浴場に入ったことも、大部屋でいびきかきまくって、皆に迷惑かけたことも、すっかり記憶にない私でありました。


4月30日 NHK長野放送・情報番組「ひるとくテレビ」生出演

翌朝は8時に、NHK長野放送局に入りました。一応、こう見えてサウンドプロデューサーの私。しかしながら、打ち合わせするも、なかなかテンションが上がらない……。みんなも口数が少ない(笑)。「まずい、局の人たちに飲みすぎたことがバレないように、早く復活しなくては!!」

だた一人、シャキッと元気なのが、番組キャスターの萩原早紀子さん。そもそも、善光寺コンサートも含めて、今回のツアーのきっかけとなったのは、何よりこの方の熱意でした。

このテレビの生放送というのは、なかなか大変でして。直前になるまで、放送されるかどうか分からないんです。実は、3月にこの番組出演が決まっていて、メンバーと前日から長野入りして待機していたのですが、なんと国会中継が入って中止になり、すごすごと退散した経緯があります。

再度、出演のオファーを受けたのですが、「確実でない遠征に、もう経費はかけられない……」と難色を示すプロデューサー平井。ところが、いつまでも食い下がるキャスター萩原さん(笑)。

というのも、出演者の資料として、なにげなく我々のCDを聞いていた時、「いつの間にか引き込まれて、泣きそうになった」そうです。「ぜひ、自分の番組でご紹介したい!」とのありがたい言葉に、ついに出演の決断をしたのでした。

そうなると、「単発のテレビ出演のために遠征して、また中止となったらまずい」と思いまして、「NHKの前後でツアーを組めないか」と打診をはじめたら、「善光寺」に行き着いた次第です。全てが「ご縁」でつながっていると思いました。

NHKの皆さんの歓迎ムードも手伝って、リハーサルも和やかに進みました。カメラテストでは、実際のトークもやってみるのですが、私はなぜか(?)ロレツも頭もぜんぜん回らず、のろのろと話しているうちに「番組終了」のテロップが。。。時間切れ。(笑)みんな爆笑のリハーサルでした。

もちろん、本番では全員、キリリ! 演奏もばっちり!! 緊張も感じられない余裕の表情での出演となりました……さゆりさん以外は(笑)。そりゃ、メインアーティストはプレッシャーで硬くなりますよね。

生放送の緊張が解けた後は、お昼ごはんが美味しいこと! 島田奈央子さんのサポート、弟子の大輔くんのアシスタントぶりも見事でした。みんな、ありがとう!


4月30日 長野市「柿ノ木カフェ・パーシモン」

NHK出演が終わって、しばし自由時間。善光寺へ観光に行く者あれば、ボーっと散策する者もあり。私はとにかく昼寝。この日の夜は、引き続きライブがあるので、英気を養わなければ!

宿坊に戻ってのお昼寝、ほんとに気持ちよかったー。

さぁ、次は「柿ノ木カフェ・パーシモン」に初登場。伊佐津さゆりさんの地元は、安曇野市。同じ長野県と言っても、それはそれは広いもので、こちら長野市では「信州ジャズ」はまだ馴染みがないと言えるでしょう。今回の3連チャンで、なんとか長野市へも足がかりを作りたいと思いました。

このライブでは、地元のサックス奏者・藤澤聡子さんにゲスト参加いただき、いろいろ助けてもらいました。彼女のたくさんのファンの方、生徒さん達にもお越しいただき、おかげさまで、とても盛り上がりました。フルートとサックス、二人の息もピッタリで、ゴージャスなサウンドに。

そして、それに触発されたかのように、伊佐津さゆりさんのピアノが弾ける。大舞台を2つ乗り越えた後の彼女は、とにかく、何かが弾けてました。トークもリラックスして弾けまくり(笑)。素敵な響きの会場と温かいお客さんに囲まれ、「信州ジャズ」が一皮向けて、「ポンと弾けた記念日」となりました。


さてさて、レポートもここで一段落かと思いきや、私の筆も調子付いてきました。その翌月、翌々月のライブ模様も、一気にお見せしようと思います。

5月24日 長野・安曇野市「アートカフェ清雅」にて“信州ジャズ”DUO

なんと一晩、2ステージ、ピアノとドラムだけのデュオ。たった二人だけで、しかも異色の編成で「信州ジャズ」が成立するの?!と言った発想へのチャレンジでもありました。

普段のバンド編成では、低音パートはベースに、和音やメロディを邪魔しないようにし、他にリズムを刻んでいる楽器があればそのスペースを譲り、まぁ言ってみれば、“楽”させてもらっている訳です。

デュオとなると、そうもいきません。あらゆる場面を二人で成立させていかなくてはいけない。逆に言うと、とてもフリーでいられる。相手の音だけに集中できるので、焦点がかなり絞られる。低音部分をダイナミックに演出したり、キラキラ、ワクワク、ドロドロした演出など、少ない編成でのドラミングも、私はかなり好きなんです。

しかも、良い音楽には、良い“音の隙間”が大切です。この会場は、CD「Field」をレコーディングした空間。「おおー、この音の響きがいいなぁー」などと、音の余韻や空間の響きを、充分に楽しむことができました。

この日は、トークもたっぷりでした。アマチュア時代から互いを知る“同志”のような存在なので、初めてお金をもらって演奏した時のこと、プロを目指した頃のことなど、懐かしいお話も。

ライブ中も、終演後も、伊佐津さゆりさんは「楽しい!楽しい!」を連呼されてましたね。音を補い合い、かつ自由自在に音楽が創れる醍醐味を感じられたようでした。

実は私たちは、今年の春から、NHKカルチャー「信州ジャズ・サロン」という文化講座を行っており、二人でしゃべり、二人で演奏するという経験を積んでおります(この講座は、9月まで毎月、NHK文化センター長野・松本教室にて開催されています)。

「信州ジャズ」の立役者二人によるDUO。これもまた続けたい。かなり見もの、聞きものなライブだと思っています。


6月14日 長野・松本市「gallery & Cafe・憩いの森」

さて、月が替わりまして、梅雨時のツアーはこちらから。

初めて下見に来た時も思いましたが、森林のマイナスイオンがたっぷり感じられて、ここで飲むコーヒーは最高です。

ただ、松本の中心街からは離れていて、山をグンと登った所にあるので、実はお客さんが来てくれるかと案じておりました。

ところが、そんな心配は不要でした。安曇野~松本エリアでも演奏し続けた甲斐あってか、「長野で応援してくれているファンの方、また、評判を聞いて訪れる方も、ジワジワと確実に増えている!」そう実感しました。お客さんが続々と入場される光景には、涙が出そうになります。

このツアーで、「信州ジャズ」に初参加いただきましたベーシストは、平石カツミさん。彼と私とは、20代の若かりし頃、月に20日間くらい一緒にいたくらい、最も共演回数の多かったベーシストです。今は、大御所歌手・さだまさしさんのファーストコールを受け、大忙しの中、スケジュール押さえることができたのです。

ドラマーとベーシストのコンビは重要です。久しぶりに音を出しても、“原風景”に帰ったような、しっくりと懐かしい感覚になりますね。「うん、よく知ってる知ってる、この景色」と互いに感じているのが、演奏してて分かりました。

ステージ後ろの大きな窓には、盆地の夜景と、蒼く深く沈みゆく山々のシルエット。コンサートの間もずっと、客席から楽しめたそうです。


6月15日 NAGANO 門前ジャズストリート 2013

ああー、最も雨が降ってほしくない野外ステージの日に、てるてる坊主への願いも空しく、ザザ振りのお天気。次々にステージを転換して、いろんなバンドが登場するイベントなので、自前のドラムもベースも、搬出入がそれでなくても大変なのに……。

メンバーの坂上領くん、自他ともに認める強力な“雨男”。本領発揮ですね。「野外の仕事は、彼を連れて行くのやめよかなー」なんて、一瞬、本気で思いましたさ(笑)。でも、彼のフルートはそりゃー絶品で、その演奏には換えがたい。この日も、素晴らしい音色が、長野市 TOiGO 広場に響き渡っていました。

この「門前ジャズストリート」は、SBC信越放送が中心となって毎年開催。あちこちの会場で、自由に音楽を楽しむことができます。そんな大きなイベントのメイン・アーティストとして、我々が迎えられたこと、とても光栄に思います。

町中のあらゆるところに貼られたポスターには、伊佐津さゆりさんの写真がドカーンと。イベントのCMにもバーンと流れる。これは、ちょっとした有名人ではないか!

我々をここへ引っ張ってくださったイベントプロデューサー、SBCの武田徹さんからも「信州ジャズ、いいねー、いいねー」とお褒めいただき、「長野知事の耳にも入れておくよ」とのお言葉も、ちょっと真に受けている私。信じることが大事です。


6月16日 オフショット

実はツアー中って、ほとんど遊べることがないのですが、あまり移動しなくてよい時など、たまには観光することもあります。上記の雨の野外コンサートの翌日は、しっかり晴れました(笑)。「ホテルから徒歩で行けるし、善光寺へお参りして、そばでも食べよう」ということに。

奈良で育った私は、基本的にのんびりするのが好きです。自然の中にいるのも好きですが、人々が刻んできた歴史を感じる場所にいると、とても落ち着きます。束の間の、気持ちも緩むひと時でした。


6月16日 長野市「柿ノ木カフェ・パーシモン」

4月から2度目、またこちらに来ることができました。初めての会場ではいつも、セッティングからサウンドチェックから、お客さん対応や運営方法まで、お店の方と細かにコミュニケーションを取るわけですが、2度目からは準備もスムースです。「ただいまー」といったお馴染みな感覚も心地よい。

おお、前回のライブから、さらにお客さんが増えている! 隙間がないではないか!! これはどうやら、一度観たお客さんがまたお客さんを連れて来てくれている。前日の「門前ジャズストリート」でたまたま聞かれたのがご縁で、こちらのライブにも来られているようだ。

そして何よりは、パーシモンのママさんが宣伝しまくってくれたに違いない。前回のライブ終演後、「とても感動しました。次回はきっと満席にします」と言ってくださったことを思い出しました。本当にありがたいことです。

我々は楽器やPA音響設備を片付けたら、そのまま東京方面へ車を走らせ、帰宅の途につきました。ミュージシャンって、ほんとにタフでないとやっていけないなぁ、と思う私たちでありました。


と、そんなこんなで、長くなりましたが、ドドーっとこのところの活動の様子をお伝えしました。いかがでしたか?

「信州ジャズ」という音楽に触れていると、“水面に広がる輪”が目に浮かびます。

ちょこんと水面に指先を落とすと、水の輪がどんどん大きくなって広がっていく。

音のイメージもちょうどそんな感じだし、人とのご縁もまた同様に広がっていく。「信州ジャズ」には、そんな力がある気がします。

応援してくださる方、支えてくださる方、聞きに来てくださる方があっての私。自分一人では何も出来ないことを実感する日々であります。ありがとうございます。

さて、これからの「信州ジャズ」と言いますと、その“輪”は、今夏から9月の中秋まで、すごい勢いで広がります。ぜひスケジュールをご確認ください。そして、各地で「信州ジャズ」の進化具合を、どうか見守ってやってください。皆さんにお会いできるのを楽しみにしております。