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(2015/12/28)

人生、勉強! ~故郷・奈良での、手作り大規模コンサート~

2015年も、矢のごとく駆け抜けようとしています。さまざまな活動の一つひとつに精力を注いだつもりではありますが、どこまで成し遂げられたことか。

ただ言えることは、来年に向けての助走がついたことは確かです。ホップ、ステップ、ジャンプの“ステップ”あたり。失速しないよう、気を張っていきたいと思っています。

◆ ◆ ◆

さて、そんな2015年を振り返るも、この秋の奈良でのコンサートは、特にここに記しておきたいと思いました。「どんな内容のコンサートだったか」のご紹介はもちろん、「どんな準備を経て本番に至るのか」、その一日のビフォア・アフターもお届けします。いわば、前回のエッセイ「手作りコンサートで得られるモノ ~平井景スペシャル“五重奏団”-TOUR2015-~」の続編、“手作りコンサート ~ホール編~”です。

今年もまた、故郷・奈良でコンサートを開催することができました。これまで20年以上にわたり、毎年のように奈良でライブを組んできましたが、今回は過去最大の規模に挑戦しました。

名づけて、「平井景スペシャル“五重奏団” & “信州ジャズ” ~古都なら・音の祭典2015」。この数年間、プロデュースに力を注いできた2つのプロジェクト、「平井景スペシャル“五重奏団”と、“信州ジャズ”を、一度に集合させてしまおう!」という企画です。

私は出ずっぱり、両方でドラムを叩きます。他の出演者は、皆さん、多忙を極める売れっ子アーティストばかり。ピアニストも2人、ベーシストも2人になるという、めったにない贅沢なイベントとなりました。よくスケジュールを調整できたものだと、その奇跡にまずは感謝です。

そんな素晴らしい出演者をご紹介します。

【第一部】“信州ジャズ”

  • 伊佐津さゆり(Piano)
  • 坂上領(Flute, etc.)
  • 平石カツミ(Bass)
  • 平井景(Drums)

【第二部】平井景“五重奏団”

  • 帆足彩(Violin)
  • 内田佳宏(Cello)
  • 榊原大(Piano)
  • 村上聖(Bass)
  • 平井景(Drums)

◆ ◆ ◆

会場は、学園前ホール。私が高校時代に毎日通学に使っていた、実家の最寄駅、近鉄・学園前駅のすぐそばにあります。この会場に限っても早6回目の開催。

「その年、その時の“自分の音楽”を、故郷に持って帰っては、皆にお披露目する」。そんな節目の位置づけなのです。

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コンサート・ホールでは、ステージの照明も、音響PA設備も、なにかと大掛かりになりますので、奈良では地元の業者「TAC」さんに外注しています。リハーサルが始まる前、その仕込みにも余念がありません。同時にピアノの調律も行われます。

各ミュージシャンも、楽器のセッティング、調整に集中。事前に私が作っておいたステージ配置図、タイムスケジュールを元に、一日の流れを説明したり、この会場をどのように活かせるかを試行錯誤したり、皆さんが想像しているよりは、かなり“静かな時間”が流れます。

今回は別々のメンバーによる2バンドが出演しますし、最後のアンコールでは全員総出演しますので、ベースアンプも2台が並び、フルートやバイオリン、チェロなどが共存できる立ち位置を工夫しました。

ほどなくリハーサルがスタート。まずは本番の第二部に登場する「平井景スペシャル“五重奏団”」からです。第一部の“信州ジャズ”のリハーサルは、最後です。リハーサルが終わったら、そのままのステージの状態で本番が始められるからです。これを「逆リハ」って呼んだりします。

第一部“信州ジャズ”も、第二部「平井景スペシャル“五重奏団”」も、それぞれ1時間半近く、たっぷりとライブを行うため、間の休憩時間もかなり長めに設定しました。お客さんはカフェで息抜きされてもよいのですが、この待ち時間も皆さんに楽しんでいただこうと、ロビーでのイレギュラーなライブも企画しました。

我々がステージでリハーサルをしている間に、ロビーでもこんなセッティングが!

ここでは、“信州ジャズ”に参加してもらっているベーシスト・平石カツミさんの、人生初のリーダー作品『Pleasure』のリリースを記念して、ミニ・イベントをやりたいと考えたのです。メンバーの皆さんには、総出演してもらえるように事前にお願いしておきました。CDに収録された平石さんのオリジナル曲を披露するべく、この場所でも音の調整とリハーサル。

このアルバムは、平石さん渾身のプロデュースで、私・平井が主宰するブライトサンズレコードから発売され、私は総合プロデューサーとして関わらせてもらっています。実は、この前々日にCDができあがって納品されたばかり。できたてホヤホヤ。これを、この場で、平石さんに第一枚目を手渡すことができ、メンバー・スタッフ全員からの「おめでとう!」の拍手に包まれました。

こんなロビー・コンサートだけでも、充分に贅沢ですよね。メンバーの皆は、「平井は、時間めいっぱい、こき使うなぁ……」って思っていたと思いますが。

実はもう一つ! このタイミングで、めでたいイベント。この前日が、スタッフで手伝いに来てくれている"ぱんち君"こと北口健くんの誕生日だったので、ケーキを用意。出演者全員からの、突然のバースデー・ソングに、サプライズ大成功!

ぱんち君は、私が大阪の駿台予備校に通っていた浪人時代、隣の席に座っていたというご縁。私が関西で凱旋ライブをやるようになった1992年来、いつも欠かせない助っ人であり、地元の親友であり、いまや出演ミュージシャンともお馴染みの仲なのです。

それでなくても、少数で多くの仕事をこなすスタッフ達。バースデーケーキまで調達してくれて、本当に愛情たっぷりに、このコンサートのために働いてくれます。ミュージシャンだけでは、コンサートは成立しないのです。

こんな受付の準備も、物販CDを並べるのも、値札ひとつ、ポスターひとつにも、スタッフの愛情がこもっています。現場監督の島田奈央子さんの指示のもと、ロビーの設営も、配布パンフレットの準備も、着々と進められました。

さぁ、ついにドア・オープン! 開演前の雰囲気は、緊張感があっていいものですね。奈良での公演では、旧知の友人、お世話になっている方も多く、私もご挨拶させていただけるのが楽しみだったります。

楽屋にも、いろいろな方が訪れます。今回は、わざわざ東京から駆けつけてくださったレコーディングエンジニア・赤川新一さん、デザイナー・原惇子さんの姿も。私のアルバム『SORA』や“信州ジャズ”のアルバムなどの制作に、大きく関わってくださったお二人です。

楽屋では、メンバーも思い思いの時間を過ごします。お弁当を食べたり、着替えたり、寝たり、笑ったり……。人それぞれのテンションがあって、面白いですね。

◆ ◆ ◆

いよいよ、本番開始のベルです。まずは、コンサート第一部、“信州ジャズ”の登場です。長野のピアニスト&作曲家・伊佐津さゆりさんを中心に、「信州の風景」にこだわった音楽を作っているユニットです。

この日、わざわざ長野県の安曇野から来てもらった伊佐津さゆりさんは、いつにも増して熱い気迫を感じるピアノを披露してくれました。

あ、でも……。他のメンバーは東京からですので、奈良へはその方が遠いのか……。とにかく、全員がこの日のために大移動。

フルート・坂上領さん、ベース・平石カツミさんも、心底、素晴らしいミュージシャンだなと感服しました。抜群の演奏力と表現力!

関西では、信州に好意や憧れを持っている方が多いようです。「“信州ジャズ”を聞いて、信州を思い出した」「信州に行きたくなった」と、たくさんの感想をいただきました。なので、故郷・奈良にこの“信州の風”を届けることができて、ほんと良かったです。

◆ ◆ ◆

第一部“信州ジャズ”が終わるや、お客さんは一目散にロビーへ大集合! そりゃそうですよね。ロビーに何やら楽器がたくさんセッティングされてるし、チラシにも「ロビーで何かやるかもー」って書いてあったし。

我々も、一旦楽屋へ戻るや否や、すぐに「平石カツミ・ロビー・コンサート」に向かいます。いやぁ、二、三百人のお客さんがロビーに集まると、圧巻ですね。大きな拍手に迎えられ、特別イベントのスタートです。

もう目の前で、ほとんど“生音”でのライブ。「めちゃくちゃ音が良かった!!」「イベントの最高のアクセントになった!!」と、この企画、多くの方から大絶賛をいただきました。

やっぱり「生音の響き、振動」がダイレクトに伝わる環境に、勝るものはないのです。「次回は、このロビーだけを借りて、コンサートします!」って、アナウンスしたら、爆笑でしたね。

このロビーでのミニライブを終えるや、また楽屋へ戻り、すぐさま、第二部「平井景スペシャル“五重奏団”」の準備に取り掛かります。次のサプライズです。

私達、客席の後方から登場するのです。しかも、榊原大さん(P)はハーモニカ、村上聖さん(B)はピアニカ、帆足彩さん(Violin)はリコーダー、ドラムの私はギター、内田佳宏さん(Cello)はパーカッションを演奏しながらです。

お客さんの気分転換になれば嬉しい。ステージに上がる人間が、間近に来たとしたら、テンション上がりませんか? その後のコンサートも、心を近づけて鑑賞してもらえるかなと思いました。

ここまでで、コンサート開始から2時間半が経過。皆さんお待ちかね(?)、「平井景スペシャル“五重奏団”」のスタートです! サプライズ登場のわいわいと騒いだ、賑やかな空気も一変。研ぎ澄ました音が、会場を包みました。さすがのプロ集団です。

すべて平井景が作曲した、独自のワールドを次々に展開。この2年間、メンバーは少しづつ違えど、チェロを入れた五人編成のサウンドを追求。この日は、まさに集大成のようなステージになりました。「映画音楽のような壮大な展開、贅沢なサウンド。親しみやすく印象に残るメロディー。かつ、ジャズ・ロックの熱さとスリル感の共存」を目指しました。いかがでしたでしょうか?

帆足彩さんのバイオリンの音色は、温かく太く、平井景のメロディーを本当に大事に奏でてくれます。そう、「奏でる」というのがピッタリ。今回、初参加のチェロ・内田佳宏さんも、初めてとは思えない馴染みっぷり。ポップスの美味しい“ツボ”を心得た、骨太のアプローチが印象的でした。

この日、「一番のオーラを放っていた!」との感想が多かった、ピアニスト・榊原大さん。イベント全体を楽しんでいるかの余裕、さすが感服。ウルトラご多忙、大人気もそのはずです。

メンバーのキャラクターも、個性が際立ち強力。一心にお客さんを楽しませようとする皆の姿に、平井も負けじとステージ中央に出て、チェロのウッチーとパフォーマンス対決。そして最後はやはり、ベースの村上聖にいさんが盛り上げ隊長に! 会場も最高潮に沸きました。

第一部~ロビーコンサート~第二部と、3時間半に渡っての大熱演が繰り広げられ、無事に本編も終了。温かく長いアンコールの拍手をいただきました。

最後はやはり、ミュージシャンが総出演です。2人のベーシスト、同時に演奏という貴重な光景。ピアニストも2人ですが、ピアノ+ピアニカで交代に演奏。

アンコール1曲目は、“信州ジャズ”のレパートリー『証城寺の狸ばやし』。平井のアレンジです。これは、お客さんと一体型。「来い!来い!来い!」と、一緒にこぶしを挙げてもらうことになってまして、アレンジした時の予想をはるかに超える盛り上がりになるのです。この日も、お客さんも楽しそうで良かった!

そして、最後の最後。アンコール2曲目は、平井の代表曲『SORA』を、総出演8名のオーケストラで。ドラム平井は、ボレロのリズムを淡々と刻むだけなのですが、これがとても集中力を必要とするのです。でも、でも、自分の大事な曲を、こんな豪華編成で演奏してもらえて、思わず歓喜の声を上げそうになりました。ここまでの長い長い道のり、準備の苦労も、一瞬で報われた気がしたのでした。

終演後も息つく暇はありません。ここは、地元の奈良ですから。本当に多くの方に支えてもらっています。私を息子や家族のように世話してくださる方ばかり。ご挨拶にひたすら心を込めます。

もっともっともっと、お一人お一人に時間をかけてお礼を伝えたいので、時間の制限がうらめしく思います。お一人を5分としても、150分か……。やっぱり時間が足りない。

お客様を送り出したら、一目散に撤収作業です。コンサートホールって、21時とか21時半に完全撤退のシステムなので、お手伝いくださった地元スタッフの皆さんにも、ゆっくりお礼を言う時間がない……。近所じゃないだけに、苦しいところです。

メンバー一同は、撤収後に京都のホテルまで1時間ほど移動し、京都のお好み焼き屋さんで打ち上げをいたしました。みんなが楽しそうに飲んで食べて、話してるのを見てるだけでも幸せでした。

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私は、こういうイベントやツアーを企画・主催するようになってまだ10年くらいですが、つくづく思います。「それまでの自分は、何もわかってなかったなぁ……」って。

そこに“有る”のは、当たり前のことじゃないんですよね。楽屋にコーヒーがあるのも、40個のお弁当も、誰かが買いに行ってくれる。受け付けする人、CDやグッズを売る人がいる。ホテルも打ち上げも移動手段も、段取りしないと存在しない。

若い頃は、“無いこと”の不足ばかり感じてたような気がします。見えないところで働いてくれた方々に、本当に申し訳ない気持ちになり、今になって感謝の気持ちが生まれます。

そして、自分の音楽を実現するために、ミュージシャンが一生懸命に演奏してくれていること。それをお客さんがお金を払って観に来てくださること。これは、ほんとに凄いことだと、深く感じ入るわけです。

今回は、そんな気持ちも込めて、チケットを郵送したりして住所のわかっている方には、お礼のハガキを送らせていただきました。

もう今さらではありますが、まだいくらかハガキが残っています。「観に行ったので、ハガキが欲しいな」という方は、以下に知らせてもらえましたら、記念に送らせていただきます。

メールアドレス⇒ mail_to_kay2019@kayhirai.com

「無いことの不足を思うより、今“ある”ことに感謝しよう!」

ついつい忘れがちになる私。あらためて、肝に銘じたいと思います。